【2012年度合宿報告】(二日目)④

学部生発表2

W.G.ゼーバルトアウステルリッツ』における不在のホロコーストと語り
発表者:龍道悠太

発表は、間接話法や物語の構造といったテクストの形式に着目して進められた。繰り返される間接話法には、単なる文体上の特徴という以上の何かがある、ということについて鈴木賢子さんの論文を参考にしながら考えていく。

その論文によれば、この作品においてナレーターと主人公の間には読者をも巻き込んだ語りの多重性が認められる。それは、作中の登場人物から主人公アウステルリッツへ、またそのアウステルリッツからナレーターへ、そしてそのナレーターから読者へと体験が語り継がれるという構造としてあらわれている。
このような「語り継ぎ」の構造は、主題として取り上げられているホロコーストの記憶と結び付けられる。それはゼーバルトが他の作品で扱っている、戦後のドイツ文学における戦争体験の描かれ方という問題に繋がるだろう。戦争経験者ではないゼーバルトは、体験を直接リアルに描くことではなく、体験の語り継ぎの可能性を重視した。

結論として、過剰に用いられる間接話法は、戦争経験者ではない者がホロコースト体験を伝達するために要請された形式だと言えるだろう。

質疑応答は、おそらく事前にこの著作を読んできた人が少なかったためだと思いますが、発表者が指摘したようなテクストの構造に関する議論はほとんどなされなかった。しかし、様々な質問や意見が出され、議論は大いに盛り上がりました。
個人的には「現実の感触にこだわりぬいて」描く小説云々のところなどが気になりました。

結局、一人で1時間30分以上にも及ぶ時間を使い切った濃い発表となりました。発表者の龍道君お疲れ様でした。

文責 3年小野寺

改訳 アウステルリッツ (ゼーバルト・コレクション)

改訳 アウステルリッツ (ゼーバルト・コレクション)