【2012年度合宿報告】(一日目)②

学部生発表1+全体討論②

今年の2年生の発表(そういえば去年は震災やら何やらで2年生の発表がありませんでしたね)は共通の課題図書として、ジークフリート・レンツ(Siegfried Renz,1926-)の『遺失物管理所(Fundbüro)』を用いました。

一番手は2年生の橋本さん。なんと彼女は大学の遺失物管理所でアルバイトをしているとか。何やら運命的なものを感じさせながら発表が始まりました。

彼女の発表は主に「もの」ないし「人」に込められた物語に焦点を当て、作中における登場人物や遺失物といった場所に「物語的存在」へ強くバイアスがかかっていると指摘。

他には主人公やバシュキール人の若い数学者に対するキャラクター像の分析から、純粋さあるいは純朴さ、善といったものに対する肯定的な態度を読み取っていく、というものでした。

続けては同じく2年生の愛甲くん。まずはこちらも登場人物の性格、とりわけ主人公の楽観性や無邪気さにフォーカスしていきます。

そこから登場人物の年齢差による世代間の意見の食い違いや、歴史的な認識、文脈を背負うことを拒否する主人公、と読みが展開。人種差別的な問題や社会問題を孕んだテキストとして読み込み、善きものに対する作者のまなざしや想像力について話が進んでいきます。

途中で指摘された「Fundbüro」と日本語訳の「遺失物管理所」の差異、タイトルに込められている意味への指摘を経て、発表は終了。

質疑応答の際には「物語論として読むことも可能ではないか」という新たな視点、テキストに対するより深い読み込みやそもそも主人公を好きになれるかなれないか(!)といったところまで、教授陣から院生、学部生まで幅広く意見が飛び交いました。

2年生のそれも5月ということで慣れない発表ではあると思いますが、そんな不安もなくスムーズに発表は進行したのでした。めでたしめでたし。



文責 3年龍道

遺失物管理所 (新潮クレスト・ブックス)

遺失物管理所 (新潮クレスト・ブックス)